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A そもそものはじまり


―もう一つの世界―

ある日のこと,こんな絵のことを思い出す。
それが今では忘れることの出来ない一枚の絵となった。

それは小学生のときだった。
授業で鳥小屋のニワトリを写生していた。

なにげなしに隣にいた,クラスでも一番に成績の良い女の子の絵を眺めてみる。
そこには,非常に写実的なニワトリの絵が描かれていた。
小学生の私の目には,それはもう,すばらしく上手い絵に映ったのを憶えている。
しかし,その絵には,どこか寂しさというか
もの足りなさのようなものを,心のどこかで感じていたのも確かなことだった。

勿論,そんな訳などその時の私には分かるはずもなかったが。

そして,今度は目の前の出来上がった自分の絵に目を移す。

そこには,いつの間にか自分が鳥小屋に入り
見上げるほど大きなニワトリに,楽しそうに餌をあげる姿が描いてあった。

そんな絵は,どこか印象的だったのか,いつまでも私の心の中に残っていたようだ。

…なぜ自分はそんな絵を描いたのか?
もやもやとした疑問のようなものは,少しずつではあるが膨れ上がっていた。

するとあるときこの世には,"二つの世界"が存在することに気が付いた。

放っておいても想像してしまうその力。
それならば,そんな力と上手く付き合っていきたいと
何時しか考えるようになっていた。
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